琥珀(Amber)

かつて地球が一番美しかった頃から、幾千万年の時間をかけてこの地上ではぐくまれた宝石です。
地中奥深く眠っていた鉱物と違って、琥珀は地上の生物すなわち針葉樹の樹脂が化石化して生れ変った唯一の生物起源宝石なのです。
樹脂が化石化するまでの悠久の時間と空間が、石の中いっぱいに閉じ込められている訳ですから何とドラマティックでミステリアスなことでしょう。
石の中のドラマに私たちを導いてくれるのは、例えば、スコッチウィスキーやナポレオンコニャックのあの「琥珀色」。
そのあたたかな色とまろやかな口当たりが、グラスを重ねるごとに私たちを神秘・久遠の太古ロマンにいざないます。

トップジェムクオリティ-琥珀-ハナジマの宝石

琥珀のジェムメッセージ

鉱物質でない有機質宝石としては、珊瑚(第8稿)に次ぐ本講座2番目の登場で、しかも植物起源の宝石素材というのは、他に殆ど例がありません。
針葉樹や広葉樹の樹木から滲み出た「樹脂」が固化・化石化したのが琥珀です。

少し詳しく云えば、樹脂中の乳香等の芳香成分や油脂・琥珀酸等の揮発成分が長い間に分解・揮発して先に失われ、分解されざる「炭化水素」成分が不活性化つまり固化したものです。
固化する過程で折り重なる地層の圧力湿度等の二次条件が、琥珀形成に大きな影響を与えますが、そのゾーンの解明はまだ神秘に包まれています。

琥珀は、幾千万年の太古に源を発する宝石と云っても、大半の鉱物はむしろそれより古い億年単位の成長履歴を持ちます。
それでも琥珀が”最古の宝石”と云われる所以は、装身具素材として人類が出会った最初の宝石という事実からと思われます。
先史文明や古代帝国では、他ならぬ琥珀が装身具素材の初陣を飾っていたことが多く、その一例を古代エジプト・ツタンカーメン王の副葬品にも見ることができます。

石の中に閉じ込められた太古の生き物を、時空を超えて眺められるのも琥珀の魅力です。
「虫入り琥珀」の虫とは、ハエ、アブ、蟻、クモ、ムカデ、トカゲといった昆虫・小動物たちですがそれらは珍しさはあっても美的とは云えず、専らストーンコレクターや古生物学者のための必須アイテムとなっています。

生物起源の琥珀は、水(塩水)に浮く唯一の宝石と云われるように、比重値が1.05しかない最も軽い宝石です。
全宝石の比重平均値が3.00位とすれば、同じ重量(カラット数)で3倍もの大きさを楽しめる石です。

琥珀ネックレス2

琥珀のマザーランド(代表的産地)

装飾用琥珀に限定すれば、北欧バルト海沿岸のロシア、ポーランド、リトアニア、デンマーク等が紀元前16世紀以来の伝統的な産地で、今日なお主要供給地となっています。
いずれも海に面した国々から採れるといっても琥珀は海で育つ有機質宝石ではありません。
寒い北国の針葉樹林の樹脂が時間をかけて化石化し、それが海岸部に堆積し、装飾用に採集されて、地元ヨーロッパから世界に広まったのでしょうか。
また、必ずしも美しく化石化しない琥珀は世界各地から年千トン単位で産出し一部は古生物学等の貴重な研究対象として人類に貢献しています。

歴史の中の琥珀

ロシアの女帝エカテリーナ2世の「琥珀の間」を抜きに、琥珀の歴史は語れません。
それは、二つの強国ロシアとドイツの関係史を学ぶことになります。
―――時は18世紀初頭、プロイセン(現ドイツ)王フリードリッヒ・ウィルヘルム2世がロシア王ピョートル大帝との友情の証に、自前の琥珀コレクション10万ピースを贈ることからそれは始まります。
ピョートル大帝の娘エリザベータ女帝が、皇帝の離宮(現エルミタージュ美術館)内に「琥珀の部屋」を作ります。
その後帝位に就いたエカテリーナ2世が、別の離宮(現エカテリーナ宮殿)に「琥珀の間」を設けて(1770年)、それを特別なプライベート空間にしました。

時は移って両国は敵対関係となり、ドイツ第3帝政ヒトラーは1941年、「琥珀の間」を解体しコレクションを略奪します(以後現在まで行方知れず)。
そして今世紀の2003年、ロシア大統領プーチンは、帝政時代の首都サンクトペテルブルグ建都300年を祝って、「琥珀の間」を復元したのです。
新たに琥珀を収集するために、何とドイツのシュレーダー首相も資金協力を惜しまなかったとのことです。

琥珀のトリビアから

■「琥珀」の呼び名は中国語です。「珀」の字は元々宝石の琥珀Amberを意味しますが、「琥」の字は、実は虎の形をしたヒスイのことです。
玉(ぎょく)と云えば、中国では最高位の宝玉つまりヒスイを指し、それを虎形に研磨し中に穴を開けたもののようです。
また、英語のAmberの由来は2説あり、「薫香(くんこう)」とか「香り」を意味するギリシャ語Ambrosia(アンブロジア)からという説、そして「海に漂うもの」を意味する古代アラビア語Ambar(アンバール)からの説。
―――どちらの説も捨て難く、結局皆様、ご自由に想像を働かせて下さい。

■この日本でも琥珀が採れます。
岩手県久慈産、白亜紀後期(6,500万年前)の琥珀です。
装飾用や香の材料としての久慈琥珀の歴史は古く、縄文、奈良時代から現代に至り特に徳川時代、「ナンブ」と云えば琥珀のことで、同地南部藩の財政を支えていたほどでした。
日本版アンバーロード(琥珀の道)は、この岩手・久慈から関西を通って奈良の都までの全長1500キロ、既に大和朝廷の時代には確立していたのです。

■樹脂が化石化したものであっても、経過年数が180万年以内(第4紀)の炭化水素物質は、琥珀と呼ばず「コパル」と呼びます。最初の発見地コロンビア(南米)の先住民がそう呼んだようです。
余談ですが、すぐ近くのカリブ海産ドミニカの琥珀は、大航海時代のコロンブスがアメリカ大陸発見の帰り道で見つけたそうです。

■マイケル・クライトンの人気小説『ジュラシックパーク』では、虫入り琥珀に眠る1匹の”太古の蚊”から、大ドラマが始まります。
恐竜が棲む時代、ある恐竜の生き血を吸った1匹の蚊が琥珀の中に閉じ込められ、現代人はその蚊が吸った血のDNAから、クローン恐竜を作ろうというものです。
ただの娯楽小説の域を超えて、人類の理念・倫理観、歴史観を考えさせられる作品です。

博物館で出会える有名琥珀

・バルト海産の琥珀コレクション(4.5Kgの原石、5万種の虫入り琥珀) カリーニングラード琥珀博物館(カリーニングラード、ロシア)
・久慈産の琥珀コレクション 久慈琥珀博物館(久慈市、岩手県)

琥珀ネックレス1

琥珀履歴書

鉱物名

アンバー Amber(有機質)

和名

琥珀 (こはく)

石名由来

(上記トリビア欄に詳述)

組成

炭化水素・酸素物質C13H16O

発見地

バルト海沿岸国(ロシア、ポーランド、リトアニア等)

硬度

2~2.5

比重

1.05~1.09

屈折率

1.54

結晶

非晶質

石言葉

Longevity(長寿)

僅か1%、世界最上級の厳選カラーストーン

ハナジマでは、取り扱う厳選したカラーストーンの実に90%が下の図のピラミッドの頂点に位置する僅か1%の最上級クラス「トップ・オブ・ジェムクオリティ」です。色の濃さは4~6ランク、透明度と輝きはSランク(下図を参照)のこだわった宝石です。
残り10%の取り扱う宝石は厳格な品質基準に合格した「ジュエリークオリティ」になります(下の図の灰色の部分)。

100分の1個の希少石でありながら、日本最大級のストック量を誇ります。
下の図は品質を表す1つの例であり、取り扱う宝石の全ての種類に該当します。

ハナジマの宝石は、9割が最上級クラスで、1割が一般クラス

エメラルドを例とした品質チャートとハナジマが取り扱う品質 PC用

エメラルドを例とした品質チャートとハナジマが取り扱う品質 モバイル用

【 知的ジェムストーン物語 】
~ あたなの価値観を変える宝石の知識 ~

主に地球で育まれた天然鉱物である宝石のことを知ることでもっと身近に感じてほしい、また別の宝石にも興味を持ってほしい、そんな思いからシリーズとして書いております。引き続きシリーズを追加していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

少々難しい部分もあると思いますが、そこを乗り越えて読み進んでいただき、美しい宝石の真実の姿を「知る面白さ」、「学ぶ楽しさ」を改めて体感して頂ければ幸いです。

「知的ジェムストーン物語」、下の画像をクリックすることで各ジェムストーンのページをご覧いただけます。どうぞお楽しみください。