パイロープガーネット(Pyrope Garnet)
ヨーロッパの近代史の中で人々に愛された特別な宝石、それがパイロープガーネットです。
長い間中央ヨーロッパに君臨したハプスブルグ帝国、その繁栄の基礎の一つが領土内にあったチェコ・ボヘミア地方に眠る豊富な地下資源 ― その中で一番”美しい資源”が、他ならぬパイロープガーネットだったのです。
王室間で親交の深かった英国ヴィクトリア王朝のもとにも、この美しき資源が海を渡り、たちまちロンドンの宝石店にガーネット・ブームをもたらします。
歴史的な「ヴィクトリアンスタイル」の原型はこうして創られました。
この深紅の宝石のむこうに、遠い王朝歴史ロマンの夢を馳せて見てください。
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パイロードガーネットのジェムメッセージ
赤色系を中心にとりどりのカラーバリエーションを誇る「ガーネット・ファミリー」その一族のスタンダード・ジェムに位置するのがパイロープガーネットです。ギリシャ語で「燃える眼」を意味するpyropeから由来するように、メラメラと燃える炎のような紅色の宝石です。
パイロープを筆頭にガーネット・ジェムズの最大の自慢は、何といってもナチュラルのままで美しいこと。人の手(加熱・含浸処理等)で得られた美しさでなく、まさに大地が為した美の贈り物なのです。
生まれが天然、且つ美しさも天然の宝石を「ナチュラル・ナチュラル」(N・N)と呼びますが、極めて少数派のN・N宝石にあって、ガーネット族はその代表格と云えます。 参考までに、生まれが天然でも美しさが人的処理によるものは「ナチュラル・トリーテッド」(N・T)にランクされ、大半のカラード・ストーンがそこに属します。
7色のバリエーションを演出するガーネット・ファミリーを理解するには、その鉱物組成から学ぶ事が重要です。
それは第4話の赤色ガーネット『アルマンディンガーネット』の稿で判り易く述べるとして、そのアルマンディンとの赤色比較はかなり微妙です。
理論的には、ピンクに近い赤がパイロープ、紫に近い赤がアルマンディン、となりますが、実際はなかなか理論通りには行きません。
明らかな違いは、純粋なアルマンディンが紫色であるのに対し、ピュアなパイロープは無色透明なのです。パイロープガーネットの赤色は、意外にもルビーの場合と同じく、あのクロム元素混入による反射光のマジックに他なりません。
パイロープガーネットのマザーランド(代表的産地)
冒頭で述べたように、パイロープガーネットの初の商業的産地は、ハプスブルグ家統治下のボヘミア王国・トレプニッツ(現在チェコ)です。
当時の盛況は今に語り継がれる大変な活況ぶりでした(下段参照)。その後ボヘミアンガーネットは掘り尽くされますが、失業した同産業労働力を引き継ぐかたちで、赤い”ボヘミアングラス”でお馴染みのガラス工芸産業が、皮肉にもそれ以上の規模で育っています。
今日、パイロープガーネットの産地は世界中に分布します。
ボヘミア産に取って代った南アフリカ産や米国のアリゾナ産パイロープは、同ジェムの歴史的な人気を受け継ぎ好評を博します。
各々”ケープ・ルビー”、”アリゾナ・ルビー”と、あまり褒められない商業名(フォールスネーム)が定着しているのはいただけませんが・・・。
歴史の中のパイロープガーネット
パイロープガーネットの歴史は古く、紀元前3000年代の古代メソポタミアやエジプトからヘレニズム初期あたりまでは、宝飾用・実用共に盛んに用いられました(後述の『ノアの方舟』参照)。
後に一旦廃れますが、19世紀チェコのボヘミア地方に大型の鉱脈が発見されて、ガーネット人気が見事に復活します。
ボヘミア地方は、プラハの北西50㌔、ドイツ国境に近い、欧州有数の資源地帯です。
当時は採掘工400人、研磨職人3,300人、貴金属職人500人そして宝石商3,500人、更にその家族を加えれば2~3万人を擁する一大宝飾産業だったのです。冒頭で述べたように、それは、当時欧州宝飾界をリードしていた英国市場を常顧客に獲得できたからです。
あの産業革命を先導した英国の一般市民が自由に使える金を手にして、宝飾品の日常使いに目覚めます。
高価なルビーは諦めても、美しさでは決して負けてないガーネットジュエリーが、彼女らに支持されたのは時代の必然でした。
パイロープガーネットのトリビアから
■旧約聖書にも記(しる)されるユダヤの伝説『ノアの方舟』、その船の灯火(漁り火)がパイロープガーネットであったことは、有名な話です。
紀元前3000年頃、全大地を覆いつくす大洪水を預言した神は、ノアに命じて生きる価値のある種だけを収容する大きな船を作らせます。
人、動物、植物から代表を選び出しますが、さしずめ鉱物の代表は深紅に輝くガーネットだったのでしょうか。
選ばれなかった爬虫類の恐竜はそのとき完全に絶滅した、という説もあります。
果たして大洪水は起き、方舟はトルコのアララト山(標高5,165m)に漂着したところで水が引きます。
人類史の再出発です。
多くの考古学者や聖書学者がその船跡を調査したところ、何とその「舟」の容積は箱型4万立方メートルにも及び、それはあのタイタニック号にも匹敵するとのことです。
■天体宇宙に「ガーネット・スター」という星があり、ケフェウス座μ星、正式学名はμCepheiと云います。もともとこの星は「エラキス」と呼ばれていましたが、あまりにも赤く光るので、天文学者ウィリアム・ハーシェルが「ガーネットスターThe Garnet Star」と再命名しました。大きさは太陽の1,420倍、光度は実に35万倍で、とてつもなく大きくそして明るい星です。
わが地球との距離は3500光年(光が3500年かかって届く距離)なので、双眼鏡で十分観測できます。
カシオペア座の夫、アンドロメダ座の父であるケフェウス座のなかに、赤いガーネットスターを探してみて下さい。
探し当てた時あなたは3,500年前の世界にタイムスリップするのです!
博物館で出会える有名パイロープガーネット
・「ヴィクトリアン初期のガーネットのジュエリー」 穐葉アンティークジュウリー美術館(那須高原、栃木)
・「パイロープガーネットの結晶」(櫻井コレクション) 国立科学博物館(上野公園, 東京)
パイロープガーネット履歴書
鉱物名 |
パイロープガーネット Pyrope Garnet |
和名 |
苦礬柘榴石 (くばんざくろいし) |
組成 |
マグネシウムとアルミニウムの珪酸塩鉱物 |
発見地 |
チェコ(宝石質) |
硬度 |
7~7.5 |
比重 |
3.78 |
屈折率 |
1.746 |
結晶 |
等軸晶系 |
結婚 |
18年記念石 |
誕生 |
1月 |
占星 |
3/21~4/20 |
石言葉 |
チームワーク フレンドシップ |
国の石 |
チェコ |
僅か1%、世界最上級の厳選カラーストーン
ハナジマでは、取り扱う厳選したカラーストーンの実に90%が下の図のピラミッドの頂点に位置する僅か1%の最上級クラス「トップ・オブ・ジェムクオリティ」です。色の濃さは4~6ランク、透明度と輝きはSランク(下図を参照)のこだわった宝石です。
残り10%の取り扱う宝石は厳格な品質基準に合格した「ジュエリークオリティ」になります(下の図の灰色の部分)。
100分の1個の希少石でありながら、日本最大級のストック量を誇ります。
下の図は品質を表す1つの例であり、取り扱う宝石の全ての種類に該当します。
【 知的ジェムストーン物語 】
~ あたなの価値観を変える宝石の知識 ~
主に地球で育まれた天然鉱物である宝石のことを知ることでもっと身近に感じてほしい、また別の宝石にも興味を持ってほしい、そんな思いからシリーズとして書いております。引き続きシリーズを追加していきます。どうぞよろしくお願いいたします。
少々難しい部分もあると思いますが、そこを乗り越えて読み進んでいただき、美しい宝石の真実の姿を「知る面白さ」、「学ぶ楽しさ」を改めて体感して頂ければ幸いです。
「知的ジェムストーン物語」、下の画像をクリックすることで各ジェムストーンのページをご覧いただけます。どうぞお楽しみください。